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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

玄関へも主人みずから出迎えた。いつまでたっても、女中も書生も現われない。うちじゅうがシーンと静まり返って、まるであき家にでもいるような感じだ。

「だれもいないのですか」

ついきいてみないではいられなかった。

「ぼくがここに滞在するときには、召し使いを連れてくるのですが、今夜はそういう者もいないほうがいいと思ったので、ぼくひとりでやって来て、きみを待っていたのですよ」

ふたりはウイスキーをチビチビやりながら、しばらく話したあとで、いよいよ庭のレンガ造りの書斎を検分することになった。

「このあいだのお話で、理屈はよくわかっているのだが、やっぱり実地に当たって見ておきませんとね」

小男の須原はそういって立ち上がった。

ふたりは懐中電灯を持って、まっくらな庭へ出ていった。林のような木立ちの中を歩いて、その奥にある奇妙なレンガ建てに近づいた。

それから三十分ほど、影男は建物の内外を歩きまわって、詳しく説明した。

「よくわかりましたよ。実にきばつなトリックだ。これならだいじょうぶです。きっとうまくやってみせますよ」

須原はいっさいを了解して、ほくほくしている。

検分をすませると、もう九時になっていた。