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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
「妙なところへ来たが、これからどうなるんだね」
須原が影男の耳に口をつけるようにして、心配そうにささやいた。
「この池の中へ隠れるんだよ」
影男は、自分自身の経験を思い出して、心の中でクスクス笑いながら、わざと思わせぶりな答え方をした。
「エッ、なんだって? この池へはいるのかい」
「うん、はいるのだよ。水の中へもぐるんだよ。ウフフフフフ。だが、安心したまえ、直接もぐるんじゃない。それにはうまい方法があるんだ。いまにわかるよ。まあ、見ていたまえ」
みなだまりこんでいた。広い邸宅ばかりの寂しい場所だし、この庭そのものが森林のように広いので、何の物音も聞こえてこない。夕やみは刻々に迫り、一つのあかりも見えず、あたりはもう見分けられぬほどの暗さになっていた。やみと静寂とが、異常な別世界を感じさせた。
黒い池の表面がかすかにゆれているように見えたが、突然、そこから棒のようなものが現われてきた。棒の先がキセルのがん首のように曲がっている。ペリスコープだ。それが三フィートほども伸びると、池水はさらに激しくゆれ動いて、直径三フィートもあるまっくろな円筒形のものが、池中の怪獣のようにヌーッと巨大な頭をもちあげてきた。