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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
さち子はグルッとからだを回して、目のとどくかぎりを見た。音は空から来ることがわかった。そのほうに目をやると、青々と底知れぬ空のかなたに、一つの黒点が見えた。何か日を反射して、星のようにチカッチカッと光っていた。
その黒点はみるみる大きくなってきた。鳥ではない。胴体をはなれた上のほうで、トンボの羽のようなものが、ブンブンまわっている。頭がでっかくて、キラキラ光っている。さっき星のように見えたのは、この部分にちがいない。さち子はいつか見て知っていた。それはヘリコプターという飛行機であった。
機体の形が大きくなるとともに、音も大きくなってきた。ガラスのへやのような透明な操縦席にいる小さな人の姿も見える。
「どこへ行くのかしら」
さち子は、自分たちの生活からは遠い空飛ぶ機械を、まぶしく見上げていた。
ヘリコプターは、彼女の頭の真上まで来ると、地上に向かって、形を大きくしてきた。オヤッ、この辺へおりるつもりかしら。音は耳を聾するばかりで、機体は目を圧して巨大になり、サーッとあらしのような風が吹きつけてきた。
草が波のようにゆれて、土ぼこりが目の前に舞いあがり、からだが吹きとばされそうになった。