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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
またもや、こぶしの突き合いとなった。グワンというアッパーカット、向こうの壁までふっ飛ぶ肉団、その反動で、足から先に飛び返り、その足が相手の腹をけって、逆に相手が反対側の壁にぶっつかる。
一転して接近戦となれば、顔といわず、胸といわず、腹といわず、双方のこぶしが機関銃のように突きまくり、キツネ色の皮膚にも、桃色の皮膚にも、無数の傷口がひらき、全身に網目の血の川が流れた。
そのからだで、またしても上を下への組み打ちとなる。たまりかねた覆面婦人たちの悲鳴のような声援が、「ブラック!」「ホワイト!」と交錯し、地下室はむせ返る熱狂の極点に達し、ある婦人たちは、いまにも失神せんばかりのありさまであった。
格闘一時間二十分。闘士たちは、もう足もとも定まらず、よろめいていた。目は流れこむ血に視力も弱り、口は大きくひらいたままヒューヒューという音をたて、肩と胸は瀕死に波打ち、足はガクンガクンして、しばしばつまずき倒れた。
しかし、まだ勝負はきまらない。
見物たちもヘトヘトになっていた。声援の声もかれて、今は小娘のようにさめざめと泣きだすもの、えたいの知れぬたわごとをわめき散らすもの、興奮の極、狂気の様相を呈しはじめた。