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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
じゃあ、九時に、そこへ行きましょう。道順は?」
相手はその道順を教えて、電話を切った。
影男の春泥は、ちょうど九時に、そのバーを捜し当てて、薄暗い地下室へはいっていった。
「須原という人来てる?」
スタンドのマスターらしい中年の男が、これに答えて、奥の院のような感じの、暗い場所をさし示した。ドアはないけれど、壁で半分仕切りができていて、スタンドの前の客からは見えないようになっている。そこに細長いテーブルを隔てて、低い長イスとひじ掛けイスが向かい合っていた。
その長イスのすみに、黒い服を着た、やせた小男がちょこんと腰かけていた。
「須原さんですか」
「そうです。佐川先生ですね」
春泥は須原に向かい合って腰をおろした。須原はボーイを呼んで、ハイボールを注文した。かれはタバコ好きとみえて、灰ざらにタバコが五、六本たまっていた。春泥もタバコを出して火をつけた。
「ここなら普通の声で話してもだれにも聞こえませんね」
「だいじょうぶです。それを確かめてから、ここにきめたのです」
「それじゃ、お話を伺いましょう」
ハイボールが来たので、お互いに、ちょっとささげ合って、口をつけた。