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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

十二、茶の間の評判の事 並に妙な密会の事

なく襟巻をブラ下げ、いぎたなくそこに寝込んでいるものは、世にも下賤な面構えをした見も知らぬ青二才だった。

十二、茶の間の評判の事

並に妙な密会の事

赤坂福吉町の一条邸の前から新町へ折れ曲る横丁の中ほど、芸者屋二軒の間を透かすと、その奥に細格子の玄関が見える。標札に何々寓とあるはいわずと知れた某の妾宅。

茶の間の長火鉢を間に挾んで今しも談話に花を咲かしている二人の婦人。一人は中背で権高な二十四五の細面。藍鼠の二枚袷に翁格子の丸帯を締め、結立て低島田に鼈甲の櫛を※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)した、素人が芸者に化けたような妙な風体。一人は五十ばかりの梅干婆、毛の薄い頭に小さな髷を乗せ、一楽かなんぞの大時代な衣裳を抜衣紋にし、長火鉢の中に顎を突入れんばかりにして、

「それがさア、お聞きなさいまし。寝床の中で朝御飯を喰べるのが西洋式だとかいいまして、茹玉子を食い散らすやら夏蜜柑をせせるやら、あげくの果てはベルモットを持って来いのコーヒーを沸かせのと、とんだ政所なんで御座います。襟垢のついた紋羽二重の長襦袢を一ン日中引摺って、ねえ、あなた、いうことが歯痒いじゃありませんか、こうしていなくっちゃ旦那の気に入らないって。