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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
三十五、地虫の弁舌の事 並に南部甲斐守の事
これもまた今度の事件に何かの連関を持つものと思われるが、そのアヤが判らない。……それにつけても、あのとき兼清博士が、壱越調呂旋であるべきこの曲が平調で唄われるさえ訝しいのに、宮声に凄切の気韻があるのはどうしたわけかとしきりに小首を捻っていたが、あれはそもそもどういう意味だったのだろう……」
と、呟いていたが、やがて慨然たる面持で空を仰ぎ、
「しかし、こんなところで詠嘆していたってどうなるもんでもない。判らないものは依然としてわからない。いささか心外だが、それはそれとしてまずきゃつを縛り上げ、その上でまた新たな展開に従うことにしよう」
と、独語しながら、心残り気に幾度も噴水の鶴の方を見かえりながら、悠々たる歩調で花壇の方へ歩み去った。
三十五、地虫の弁舌の事
並に南部甲斐守の事
幻想の世界では科学は所詮手も足も出ないのであろうか。この魔がしい「東京」の魑魍の世界は、あまりにも玄妙を極めていて、秀抜なる真名古の活眼をもっても、ついに噴水の鶴の大秘密を洞察することが出来なかった。真に一歩というところまで近寄ったのだが、とうとうそれをよくすることが出来ずに、心を残して立去ってしまった。