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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

二十一、妙な首実験の事 並に電話の声の事

眼頭にキラリと涙を光らせ、

「おい、バロン、印度支那くんだりで、この長い間苦労を分け合った二人の、これが別れか。こんな別れ方でいいのか。……馬鹿な、お前、そんな馬鹿な……」

バロンは欄干に背を凭せて空嘯き、

「ああ、いいんだ。慾呆けたんだ。放っといてくれ」

「じゃァ、それァ、本気か」

「くどい」

「せめて、訳を……」

「勝手にしやがれ」

ハッチソンはガクガクと身体を震わせ、凄まじい眼差しでバロンセリを睨みつけていたが、やがて迸るような声で、

「よし、いかにも別れてやる。……その代り、必ずぶち壊して見せるぞ、忘れるな」

と戦く手で外套の釦を掛け終ると、足早に以前の片側塀の闇の中へ消えて行った。

二十一、妙な首実験の事

並に電話の声の事

寒々と広い警視庁捜査一課長室の大きな事務机を前にして、真名古課長が孤影凝然と坐っている。前回、有明荘でやったように、又してもまさに腹でも切ろうという風に、腕を組み面を低く俯向け、深い憂悶の色を浮かべながら、まるで化石したように微動だもしない。

見ると事務机の上には、例の有明荘の獲物、緑色のチョッキ、獅子頭のシガアレット・ホルダー、紙を刻んだ靴型、〇米八六と書きつけた手帳がキチンと置き並べられてある。