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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
第七回
二十二、真名古長講の事 並に獅子頭のパイプの事
「総監、私はあなたと二人ッ切りになる機会を待っていたのです」
時間は正に六時廿分。明日の午前四時までにあと十時間足らず。警視庁が勝つか、暗殺者が勝つか。……この際どい最中に、真名古は呑気らしく一体何をいい出そうというのであろう。
第七回
二十二、真名古長講の事
並に獅子頭のパイプの事
夕刊の情報欄にたった数行で片付けられた、元宝塚少女歌劇学校生徒松谷鶴子の自殺事件の裏を引ッ繰りかえすと、どうしてなかなかそんな事じゃない。世間の表面には波瀾の片鱗すらも表われないが、例えばミンダナオ海溝の海底噴火のように、暗黒な海渕の底で轟々と湧き立ち、沸りかえり、まさに狂奔擾乱の趣きがあるのである。
最初の状況では、どう見ても皇帝が鶴子を窓から投げ落したとしか見えぬような具合で、当局はあわてて真相の秘匿に努め、ようやくこれを自殺事件に整備てしまったところ、あにはからんや、皇帝はむしろ被害者の側で、事件後まもない午前四時半ごろ、何者かのために誘拐されたことが明白になった。
いやしくも一国の皇帝が日本の領土内、然も東京のど真ン中で誘拐されたとあっては実にどうも由々しい問題、当局の驚愕と狼狽はけだし察するに余りあるのである。