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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

十五、風前の燈火の事 並に膝詰談判の事

……三、九、二十七の二千七百万円。それに格付というものがありますから、黙っていても五千万円。……話になりません」

「このぐらいの大きさのダイヤモンドが日本にあるかね」

手代は辟易して、

「どうも困りましたな。…… Jewel of world(「世界の宝石」)という絵入りの英語本がございますが、何かお調べになるんならお目にかけましょうか」

といって奥の本棚から、クオート版の大きな本を持ち出して来た。真名古は受取って世界の有名な宝石を順々に眺めていたが、間もなくハタリと本を閉じて机の上に差置いた。

真名古の眼をうったものは、「大モガール」という宝石の次ぎに掲載された、真名古の手芸品と寸分違わぬ、薄紫の美事なダイヤモンドの原寸図だった。その※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)図には次のように註されていたのであった。

帝王  二九五カラット。(一八八六年 南アフリカ、ブレミャー礦山産出。安南帝国皇室所蔵)

十五、風前の燈火の事

並に膝詰談判の事

誰か扉を叩く。この音で夕陽新聞雑報記者古市加十は、今しも帝国ホテルの豪奢な貴賓用の一室で眼をさます。