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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
四十一、市街戦記の事 並に納めの台詞の事
それこそは、あの不幸な真名古が、ハッチソンの屍体の枕元に坐って書きしたためたあの報告書なのであった。それはこんなふうに書かれてあった。
皇帝は健在。有楽町二丁目角、元日東生命の廃屋中に監禁せられあり。屋内に安本亀二郎外九人の博徒。機銃の用意あり。
四十一、市街戦記の事
並に納めの台詞の事
日比谷の交叉点から銀座の方を向いて電車通りを行きかかると、ちょうど美松と対角線上に、そのころ、古びた一棟のコンクリート建の廃屋があった。その向いにはまもなく美松の宏荘な建築が建ち上り、横通りには、電気協会のクリーム色の瀟洒たる建物が出来上ったのに、この不等三角形の空面だけは、そのボロボロの建物をのせたまま、板囲いもなく荒れるに任かせられてあった。この空地は一時ベビーゴルフ場になった事もあるが、それもまもなく廃れて、前より一層ひどいようすになり、チャチなゴルフ・コースが雑草に閉ざされ、夏ならば昼間から虫の音が聞こえようという荒れ方。その隅にショボショボと生えた胡麻竹が風に揺られている有様なんていうものは、これが東京丸の内の地内かと怪しまれるばかりのはかなさ。
建物がまたひどい。