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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

二十六、真名古抒情の事 並に二人の総監の事

降り切った所は人が立って歩けるくらいの暗道になっていて、三燭ぐらいの薄暗い電灯が間遠に点っている。

この暗道は二十間ほど先で直角に折れ曲って、お茶ノ水の土手の横ッ腹へ抜けるのである。二人がその曲り角まで走って行くと、壁際に五十ばかりの、小さな丸髷を頭にのっけた老婆が壁に凭れるようにして寝ている。いま警視庁が全機能を挙げて捜査に熱狂している、故松谷鶴子の家の通い婆、あのお喋りなとめは、寛怠至極にも、こんなところに寝っ転がっている。

いや寝てるのではない。殺されているのだ。古繩で首を絞められ、黒焼屋の天井にぶら下っている猿の乾物のように、歯を剥き出して、恨めしそうに天井を睨んでいたのである。

二十六、真名古抒情の事

並に二人の総監の事

すこし広すぎる趣きの捜査課長室に、電灯ばかりがいたずらに明るく、周囲の白壁がチカチカとその光を投げ返す、うそ寒い風景。

警視庁は今ひっくり返るような騒ぎを続けているのだが、ここばかりは森閑と、いわば一種閑寂な様子でしずまりかえっている。

人の心を撫でさするような憂鬱な真名古の声がほのぼのと続く。何か人を眠りに誘い込むような奇妙な調子を持っているので。