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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

「驚いた驚いた、くどいようだが幸田節三、臍の緒を切って以来今日ぐらいおどろいたことはない。……なア、あの鶴が唄い出そうたアお前だって思いも掛けやしなかったろう」

「あた棒だ」

「夢でも現でもねエ、確かに歌ったなア」

酒月は捨鉢な調子で、

「ああ、唄った唄った」

幸田は探ぐるように酒月の横顔を瞶めながら、

「もしやと思うが、まさかお前が何か仕掛をしたのじゃあるまいな」

「そりゃ、こっちで聞きてえぐれえだ」

幸田は腕を組み、

「うむ、そうか」

酒月は煙草の煙を天井に吹きつけながら、

「おい、幸田、お前は確かに汐に乗ってる……。ああ、頼もしいもんだ。威勢のいい奴にはかなわねえ。胆っ玉一つで青銅の鶴を鳴かせたってんだからあっぱれなもんだ、酒月は兜を脱いだ」

悦子は長火鉢の横にだらしなく横坐りをしながら、狡そうな目つきで二人の会話を聞いていたが、この時プッと噴き出し、

「まさかねえ、いやだわ、二人とも真面目な顔をして。担ごうたってその手に乗るもんですか」

幸田はうるさそうに舌打ちをし、

「お前らはちょっとあっちへ行ってろ。そんなところへ横っ坐りしていないで酒の仕度でもしろ、何だ」