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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

これを俊秀鋭敏、警視庁切っての辣腕と懼れられる真名古捜査課長と思うものはあるまい。見るもいぶせき有様である。

花は拗ねた子供のように怨めしそうに上眼で真名古を睨みながら、

「あたし、探偵なんか大嫌いです、人情がないから。あなただって撲ってやりたいくらいよ。……ねえ、あたし、ご恩返しのつもりでいうんですから、どうかそう思ってちょうだい。さもなければこんな余計な告げ口なんかする気はないのです。……あたしがこの話をすると誰か罪人になるんでしょう、情ないわねえ。……ああ、あなたなんかに助けられなきゃよかった」

と大きな溜息をつくと、考え深そうな眼つきをしながら、

「昨夜、除夜の鐘をきいてからお掃除をすませ、それからお風呂へ行きました。歳の市での梅の花とお供餅を買って帰って来たのは二時過ぎでしたの。髪を結ったり襟掛けをしたりして時計を見るとかれこれもう四時なんです。すこし横になろうと思ってお炬燵へ入ったんですけど、眠るのが惜しくなって起きてしまいました。そこの障子を開けて、灯りを消したまま敷居へこんなふうに肱をついて考えごとをしながら、フト、鶴子さんの部屋を見上げますと、玄関にも食堂にも寝室にも灯りがついているので、ああ、王様がいらしてると思ったんですわ」