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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

腕時計だったのかしら。はっきりしたことはいえません」

真名古はチラリと花の面を見上げ、

「娘さん、お前、王様の写真を見たといったな。その男が王様に似ているように思わなかったかね、こういう顎髯はなかったか」

花は怒ったような顔つきになって、

「お気の毒さま、写真には顎髯なんかありませんわ。……それに、王様は鶴子さんを殺す筈なんかないんです」

「ほほう、どうしてそんなことが判るね」

「何をしても笑ってばかりいるって歯痒がっていました、鶴子さんが」

「王様は鶴子を愛していられたのだね」

すると、花は躍気となって、

「いいえ。鶴子さんの方はもう大変だったんですけど、王様の方はそれほどでもなかったんです。ええ、あたし、そう思いますわ」

「成程。それで、鶴子に男の友達があるような様子はなかったか」

「男の友達どころか、女の友達だってあたしと踏絵さんぐらいのものですわ。だいいち、家にばかしひっこんでいて、戸外へ出ることなんかないんです」

「それで、もう、私に話してくれることはないか」

花は襟に顎を埋めて黙り込んでいたが間もなく顔をあげ、

「あたし、まだ知ってることがあるんですけど、これはいいませんわ。