轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
率直にいえば真名古がこれから奥へ入ることを禁じているのである。真名古が調査に出かけたと知って慌ててやって来たのだろう、封印の表にはまだ微かに湿り気がある。真名古は冷然たる面持で衣嚢から鈎のように先の曲った針金を取出すと扉を開けにかかる。一分ほどガチガチやっていると扉が開く。
さすがに東京一といわれるアパートだけあって、万事豪奢な取廻し。足首も埋まりそうな朽葉色の絨氈の上には、脚の低いフランス製の近代風な家具を置き並べ、窓には灰白色の贅沢なベルベットの窓掛がすんなりと掛り、ベルギー産の高価なガラス鉢の中には、この真冬に蘭鋳が悠々と尾鰭を動かしているといったぐあい。
食堂へ入って見ると、食卓掛の掛ったテーブルを挾んで、向き合う位置に二脚の椅子が置かれ、シャンパン・グラスが一つずつ、ナフキンが二つ、フォークと魚匙が二本ずつ、生牡蠣の殻の堆高い中皿と鵞鳥の肝を取りわけた小皿がおのおの一枚ずつ、灰皿が二つ。要するに、二人だけでここで食事をしたという無言の証人になっているのである。真名古は食卓の上を眺め廻したのち一方の灰皿の中を覗き込む。その中には口紅で赤く染ったゲルベゾルテの吸殻が三本転がっている。