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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

十六、鳥黐に手をつく事 並に真名古の宣言の事

部長は面もふらず、

「手前ら、殿下のお返事をお待ちいたしております」

加十の頭の中からスウッと血が退いて行くような気がする。ああ、眼の前の部長の顔がだんだんぼやけて行くのはどうしたというのであろう。

あたかもこの時、また扉をノックするものがある。支配人が入って来て、警視庁の真名古捜査課長がお目通りしたいといっていると告げる。加十はなかば錯乱状態で、

「うむ、返事は後廻しだ。私は真名古捜査課長と緊急の用談がある。退ってくれ」

部長は最敬礼をして退出する。例の如く真名古が陰気なようすで入って来る。扉口で注視の礼をすると、沈着な口調で、

「古市君、妙なところにいるナ」

と声をかけた。

十六、鳥黐に手をつく事

並に真名古の宣言の事

一方にこんな騒ぎが始まっている間、警保局ではこんな事件がもち上っていた。ちょうど真名古が花の家の玄関に突っ立って案内をこうているころ、時間でいえば十時十分ごろ、局長室の扉が劇しく引開けられ、警視総監を伴った大槻局長が怒気沖天の勢いで足音も荒々しく入って来た。額は打紐のような青筋を浮かべ、ムンズと皮張椅子に腰をおろすと、

「おい、総監、警視庁は交通整理をするだけが能じゃなかろう、何とかしてくれ」