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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

十九、加十、愚考する事 並に黒髯風に靡く事

といって欧亜局長に、

「柳原君、君は警保局長と一緒に帝国ホテルへ行って、その雑報記者に手ッ取早いところ安南の知識を詰め込んでやってくれ給え。せめて首府の名ぐらい知ってなくては不都合だ」

内務大臣は覚束なそうに腰を浮かしながら、警保局長に、

「じゃア、万事よろしく頼む。兎も角、感づかせるようなことをして貰っては困るぜ。その方だけは充分慎重にやってくれ給え。……それから、忘れずに金を持って行け。赤新聞の雑報記者なぞ、どうせ文無しにきまっているから。……いやいや、そんな事より、ウロウロせずに早く寝てしまえ、と暗示してくれ」

というと、頭を抱えて机に俯伏し、

「ああ、それにしても、どうしてそんな馬鹿野郎が飛び込んで来たものか」

十九、加十、愚考する事

並に黒髯風に靡く事

こんな工合に盛んに好評を博している当の古市加十は、例によって帝国ホテルの貴賓用の豪奢な一室にたぐまっているが、見受けるところ、さっきまでの横着な面構えはなく、手に夕刊を持ったまま安楽椅子の中に沈み込み、唇をへの字なりに引き曲げて、

「夢だ、幻だ」

と呟いているのである。

これだけでは雲を掴むようで、何のことやらお判りになるまいから、この間の事情を伝えるために、その後の古市と真名古警視のいきさつを述べて置こう。