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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

すこし、妙じゃないか」

「何を感違いしてるんです。僕は「鍵を持って」なんていいませんよ。「鶴子が玄関の扉を閉めて戻って来た」といったのです」

「それで?」

加十は自若として、

「要するに、玄関の扉は開いていたんですナ。その証拠に、いま考えて見ると僕はノツブにさえ触らなかった。よろけて行って扉に凭れたらひとりで開いたんです」

「その時、玄関の間に電灯が点いていたか」

「いいえ、真ッ暗でした」

加十の記憶が正しいとすれば、それによってこういう情況が推察される。犯人は加十が出て行く前にすでに玄関の間へ入って、その暗闇に潜んでいた。間もなく気がついて、鶴子が玄関を閉めに来る。そこで……。

第三の男、つまり皇帝と鶴子の会食者が犯人かも知れぬという一点の疑問はこれで解消した。推察通り、犯人は料理場の生乾きの壁に凭れていた、背の高い「第四の男」である。

「お前は、鶴子が風呂敷包のようになって落ちて来たといったな。すると、当然二階の窓も眼に入っただろうが、その時窓にどんな人影があったか」

加十は首を捻り、

「窓を見たという記憶はありません。……いや、私は建物とほとんど垂直の位置にいたので、その位置からは窓が見えなかったのだといった方が適当かも知れません。