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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

と歯の浮くようなことをぬかす。いづみは三ツ指をついて、

「女房、退りまするでございます」

と立上ると、

「このひとを窘めると、承知しないぞ」

ハラハラと裾をひいて出てゆく。これも美しい。月の中から抜け出して来たような後ろ姿。

幸田は田舎相撲のような盛り上った膝を揺すりながら、

「花ちゃん、そう恐がらんでもいいさ。別に取って喰おうとはいいやしない。……みちみち酒月から聞いたろうが、こっちの訊ねることに返事をして貰えばそれでいいのだ」

花は蚊の鳴くような声で、

「知っていることなら御返事しますけど」

キッと唇を噛んで、

「でも、こんな……」

「知らないことは訊きやしない。早速だが、お前は王様のダイヤモンドをいま誰が持っているか知っているだろう。お前は鶴子の親友だし、山木も踏絵もひどくお前を可愛がっていたから、その辺の事情を知らぬことはなかろう。……一体、ダイヤモンドは誰が持っている」

花は俯向いたまま、

「ダイヤモンドって、なんの事ですの」

「おい、すッ恍けても駄目だ。……今朝がた山木が屋根伝いに「すず本」を抜け出し、ハッチソンのロード・スターで有明荘へ駆けつけ、鶴子が預っていたダイヤモンドをさらってまた「すず本」