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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
少し厄介なことなんだが……」
先ほどから皇帝のご様子を見るところ、嘆息をなされたり独語をなされたり、はなはだ胡乱なようすを示されるので、しきりに胸を痛めていたのである。御酒気かと思うとそうでもない。近ごろ、安南における反皇帝派一味の暗躍などあり、御心痛のあまりもしや錯乱されたのではなかろうか、もしそうなら、早速医家へお伴い申さねばならぬと手ぐすねひいていたのだが、見受けるところ皇帝におかれては、さして取乱したようなご様子もないので安堵の胸を撫でおろし、直立して敬礼すると、
「手前ら、殿下の御命令をお待ち申しているのでありまする。たとえ、いかなる御命令にもせよ、しょせん、手前らは一命にかえて仕おおわせるのでござります」
加十は横柄な口調で、
「よし。頼みというのは外でもないがな、……秀陳、お前は自動車を見たことがあるだろうな」
「つがもない。どうして手前らが自動車を知らぬことがござりましょう」
「ああ、そうか。……では、自動車の一番先っぽに、エンジンを冷やす水を入れる孔があって、その蓋にいろいろ粋なくふうをこらしたものがあるのを知っているか」
「存じております。