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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

といっただけでは前々回をお読みにならぬ読者諸君には何のことやら一向お判りになるまいから、どういう事情によってこのような大胆不敵な到達をするに至ったか、その次第をかいつまんで述べて置くのもあながち無益なことではあるまい。

兇行の現場を眺めていたという、有明荘の崖下に住む例の縫子の花は、(犯人は毬栗頭の大男で、手首に何かキラキラするものを巻きつけていた)と陳述した。その後、真名古の周到緻密な現場調査によって、それは次のように敷衍された。

「犯人は毬栗頭。身長五尺七寸五六分。職業は警察官、金モールの腕章と三つ乃至五つの星章をつけた警視以上の身分。帯剣。脊柱側彎。左足に軽度の跛行癖、靴型は一二・〇〇、プリンストン型、米国エディス会社製」

大体こんな工合だが、警視総監をよく見知った人がこれを読んだら、もっとも周到なる総監の肖像画であると舌を捲くであろう。のみならず、鶴子の衣裳戸棚の曳出しから、総監愛用の獅子頭のパイプが発見されたということになれば、いわば首尾一貫の体で、どのような凡庸なる探偵といえども当然の断案を下すのに躊躇することはあるまい。

なるほど、フランスには、十九世紀の初め、市井の一盗賊から警視総監に昇進した、フランソア・ヴィドックのような男もいる。