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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
小学校の裏手の、小さな門構えの家の玄関を引開けると、案内も乞わずにズンズンと二階へ上って行き、呆然としている女中を尻眼にかけ、壁際の大きな書棚の中を一心に掻き探し始める。
この家は、もと北大教授、今は東京市土木局嘱託浅見厚太郎博士の邸なんだが、すると加十はここへ大伏樋の古地図を探しに来たものと思われる。さながら狂乱の有様で黴臭い古書箱をひっかき廻していたが、やがて、「天正日記」と誌された和綴の本を引っぱり出すと、巻末についている地図を引きちぎってポケットに納め、本棚の上に置いてあった小さな手携電燈を引ッ攫うと、物もいわずにその家を飛び出し、家の前でタクシイを拾って銀座の松坂屋の前に行き、茫然と町角に立って河童の皿のついた自動車の通行を計算している秀陳の傍へ行って、もう三十分したら田村町一丁目の放送局の工事場まで来るように口早に命じて置き、そのタクシイでまた田村町の角まで戻って来た。
板囲いの中へ入って行くと廿尺ほど掘り下げられた工事場の周りには、三台ばかりのコンクリート・ミキサアが夜風に湿めり、赤錆びたレールの上にはいくつもトロッコが引っ繰り返っている。