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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
前回、「すず本」における真名古の検証によれば、今暁三時五十分から五時までの間に、つまり、アパート有明荘で松谷鶴子が何者かに殺害されたと思惟される時間に、岩井とハッチソンの二人も屋根伝いに「すず本」を抜け出したという事実が確認されたようである。こんな切迫した面つきをして引手茶屋に潜伏していたところを見ると、ハッチソンはこの事件に何か重大な関係を持っているようにも思われるのだが、それはそれとして、ハッチソンが、そんなふうに誘いをかけると、印東はすぐ乗って来て、顎を突き出すようにして物物しく声をひそめ、
「実はね、ハッチソンの旦那、あたし、ついさっきまで、山木が鶴子を殺して王様の金剛石を奪ったんだとばかし思っていたんです。ところが……」
と、軽薄な手つきで額を叩き、
「ところが、隣り座敷で、山木の問わず語りをきくと、それがまるっきり見当違いだったということがわかったの」
「だいぶ、複雑った話になりましたな。それで?」
印東は、山木が「すず本」を抜け出してまた屋根伝いに帰って来たのを目撃した件、志摩徳の一味にこのネタを売り込んで一万円をモノにした件を述べ、
「ところが肝腎の山木の居所が判らない。