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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

加十は胆をつぶし、

「殺人! おお、どうしてそんなことを知ってるんです。これはどうも弱った」

「ここの小使がそう通告して来たのだが、それとも不実のことかね」

「いや、不実だとはいいませんが、然しどうも」

巡査部長は厳めしい紋切型で、

「まアいいから案内したまえ」

それとも踏み込もうかといわぬばかりの見幕。隣りの寝室には宗皇帝がいるのだが、これはいよいよ以て正念場だと思いながら加十は止むを得ず先に立って寝室の中へ入って行くと、何処へ隠れ込んだものか安南王の姿は見当らぬ。思うに今の騒ぎを聞きつけて奥の浴室へでも隠れ込んでしまったのだろうが、さして広からぬアパートのことだからどうせ隠れおわせられる筈はないのである。

巡査部長は寝台に近寄って鶴子の死体をいじくり廻していたが、この時玄関の方から何かヒソヒソと語り合う声が聞こえて来たものだから、巡査部長も気になったと見えて大股にその方へ出て行く。加十も曳かれるように少し後からついて行くと、玄関の戸口で私服と立話をしているのはお馬というさっきの小使らしい。お馬婆はヒソヒソ声で、

「ええ/\、奥にいるのがそうなんですよ。