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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
「どうしたんだ」
「また何がおっ始まったというんだ、早くいえ」
警保局長は恐るおそる顔を上げて、
「それが実に、どうも、意外のことで、……只今、検事局の鳴尾検事から電話があって、真名古捜査課長が、警視総監に対する逮捕状を請求したが、事情を聞くと要急事態に該当するからただちに逮捕状を発送した。これから司法大臣に報告するつもりだが、なにしろ重大問題だから今その内容を洩らすことが出来んというのです」
一座は慴然として言葉もなく、互いに眼を見合わせるばかりだったが、やがて内務大臣は怯えたような声で、
「真名古が警視総監を逮捕するって! そ、それは一体どういうわけなんだ」
警保局長もホトホト困惑した様子で、
「ですから、それが、一向どうも……」
「といってすましているわけにはゆくまい。真名古を呼んで事情を聞こうじゃないか」
警保局長は何ともいえぬ苦っぽろい笑い方をして、
「放っておいたわけじゃありません。早速真名古に電話を掛けたのですが、今申上げる時期でないという剣もほろろの挨拶で、威してもすかしても、どうしてもいいよらん。どうもてこずりました。何しろ御承知のような狷介な男ですから、いわぬとなったらどんな権力をもってしても口を開かせることは出来ますまい。