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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
窓といってもガラスなんてものが嵌まった、そんな高尚な窓ではない。四角に口が開いて、そこに五本ばかり鉄棒が植え込まれただけのもの。ご存知の方もありましょう、冬は木枯が、夏は西陽と蚊軍が自由自在に疎通するあの悩ましいフキヌケの窓。その窓のボールトが三本ばかり曲ったりよろけたりして、ひょっとすると人間が一人脱け出ようかと思われるほどの隙間が出来ている。常識で考えれば、いや、常識などで考えなくとも、拘留人はここから逃亡したと見るのが至当なのである。
然るに、その窓なるものは、床から大体七尺ほど上につくのが留置場の定法であって、さればもちろん背伸びぐらいしたって届きはしない。のみならず、腐っても鉄棒は鉄棒で、決して飴ン棒じゃない。踏台でも使って相当念を入れるのでなければ、尋常なことではオイソレとこの窓は破れんのである。
監房の扉を引き開けて、目指す人影があるべきところにないのを見てとると、さすがの真名古も棒立ちになってしまった。
真名古ほどの達人にとっても、これは実に意外千万な出来事だったのだろう、度胆をぬかれたような顔をして監房の入口に突っ立っていたが、追々なんとも凄まじい形相になり、眦も張り裂けんばかりにその窓を見上げながら、固く喰いしばった歯の間で、