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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

「畜生!」

と、呻くような唸り声をあげると、錯乱したようすで足早やに監房の中へ進み入り、例の古風なインバネスの袖をハタハタと羽搏かせながら、鉄棒へ噛みつこうとでもするような猛然たる勢いで窓の方へ飛びつき始めた。翼の影はムラムラと部屋一杯にひろがって、さながら大いなる怪鳥がこのところに飛び狂うかとも見えたのである。日ごろ死灰のごとく冷静沈着なる真名古の振舞としては、いささか常規を逸していて、一種凄惨な趣きがあった。

そういう異様な動作を飽かず繰返したのち、今度は突然に身を翻すと、何やら聞きとりにくいことを切れ切れに叫びながら、まるで旋風のように監房から走り出して行った。内部からはこんな荒仕事が出来ないとすれば、当然これは外部からなされたものに相違ないのだから、真名古はこれからその事実を確かめようというのだろう。果して、それから二分ばかり経つと、真名古の姿は留置場の外側に現われる。

そこはやや広い空地になっていて、コンクリートの塀がその周囲を囲んでいる。この辺は平素あまり人の入り込まぬところだし、空地の地面はあたかも霜壊えでボロボロになっているから、地面を叮嚀に調べると、その上でどんなことが行なわれたか、一切の事情が手にとるようにわかるはずである。