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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
さて、真名古は、今いったような妙な恰好で、梯子に宙乗りをしながら一見茫乎として空を仰いでいたが、やがてバラリと腕を解くと、惨憺たる声調で、
「畜生、この警察にあいつの一味がいやがったんだ。……そうと知ったら、……」
と、切れ切れに呟きながら、燃えるような眼差で監房の窓を見上げた。
真名古の頭のすぐ上に監房の窓が歯の抜けたような口をアングリと開けている。その口に嵌め込まれた鉄棒が、当時の横着な手口を証明するようにXバインになったりOバインになったり、見るも無惨なようすで薄月の光に白々と照らし出されている。
それにしても、監房の入口から王様を攫って行ったのだとすれば、一体何の必要があってワザワザ窓の鉄棒などをひン曲げたのだろう。
しかし、これだってよく考えて見れば、別に奇異だの玄妙だのという事柄ではない。要するに王様がここから連れ出されたと見せかけるためのトリックに過ぎない。監房の入口から連れ出されたとみぬかれたくない。何者かがこの窓を破って王様を攫って行ったのだと誤解させたいのだ。警察の内部のものの仕業だと感づかれては困るのである。とすれば、これは王様を連れ出してから、その後でやった仕業に違いない。