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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

「構いませんとも。金剛石を手に入れたら、一時間以内にいつでも日本を発てる準備が出来ています。御安心なさい」

「だんだん判りかけて来た。よく筋が通ります。では、どういうふうにして助けてくれますか」

「そちらで条件を出して下さい」

「思っていたよりも潔白ですね。感服しました。……では、こうして頂きましょう。即刻警視庁の真名古捜査課長に電話をかけて、「古市加十、南部甲斐守」と、この二語だけいって頂きましょう。それだけでよろしい」

「古市加十、南部甲斐守……、こうですね」

「その通り。金剛石を探しに行く前に電話をかけると誓ってくれますか」

「誓います。……さア、金剛石のありかをいって下さい」

さて、どこといおう。少なくともこの抜目のない悪党を、一応納得させる事が出来るような場所でなくてはならんのだが……。加十は乏しい智慧を非常招集して、忙がしくあれこれと工面する。

「どうしたんです、お返事は」

苦しまぎれに、フト妙な事を考えついた。あそこなら、こいつだって納得するだろう。

今朝、王様と鶴子と三人で夜食をしている時、加十は鶴子の代りに立って料理場へ氷を取りに入ったが、扉口に近いところの壁の一部が修繕されて、まだ生乾きになっているのを認めた。