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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
笑子が岩井の行為に充分な了解を持っていることは、これによって察しられるのだから、笑子の口を割りさえすれば、一切の事情がわかるであろう。
それにしても、何しろ規定の時刻までにはもう僅かのタイムしか残っていないのだから、日数をかけて徐々に吐かせるなんていう悠長なことはしていられない。場合によっては……
真名古の面上は何ともいえぬ一抹の凄気がサッと流れ出す。眼は火がついたように烱々と輝き、すこし前屈みになって、まさに獲物に飛びかかろうとする野獣のような剽悍な身構えをする。例えていうならば、真名古の全精神が目覚時計によって呼び醒まされ、俄然戦時体制に入ったような凛烈果敢な風貌になった。真名古が銃士の一人に合図すると、まもなく村雲笑子が連れ込まれて来た。
第八回、「お茶松」の賭場の入口に立現われた時のように、しどけなく足元にからむ銀絲入りのお召の、二枚袷の裾を外輪に蹴開きながら、だらけ切った恰好で入って来ると、真名古が指し示した椅子の端に浅く掛け、不貞腐ったようすでそらうそぶいている。
張りのある愛らしかるべき眼は、淫蕩のためにうす黄色く濁り、美しかるべき北国産の膚は、長らくの放縦な生活のためにさんざんに荒廃している。