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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
タキシードを着た一人の男を、これも礼服をつけた二人の男が左右から引ッくるんで、滅多無性に斬りつけているのである。短刀を振り上げるたびに、刃に月の光があたってキラキラと物凄く光る。
斬り立てられている方は、もう抵抗する力もつきたらしく、両手で頭を蔽って、切りつけられるたびに泳ぐようにヨロヨロと前後によろめく。ウ、ウ、ウ、とひく息ばかりになって呻きながら、必死に身を支えながら隙を見て五六歩夢中で窪地の方へ逃げ出すと、一人はすぐ引戻して頭のあたりに斬りつけ、そうして置いてもう一人の方へ手荒く突きやる。一方はすぐ受けとめて深く脇腹へ突っ通す。ちょうど振子のように二人の間を行ったり来たりしながら、ところ嫌わず斬りさいなまれている。
斬りつけている方の二人は、顔が半分隠れるほどの大きな色眼鏡をかけているので、人相は判らないが、月に向うその顔はいずれもクッキリと白く、服装も物腰も、ひと口に典雅とでもいおうふう。こういう界隈には余り見馴れぬ立派な上流紳士であって、さながらガヴォリオーの小説の場面にでもあるような、なんとも西洋臭い、一種浪曼的な情景だったのである。