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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
これが真名古を失敗させた当人だ。しかし、真名古の眼差の中には、怨むような色も憤りの翳もさしてはいない。ただたいへんに悲しげである。眉根を皺めるような真似をしたと思うと、真名古の頬の上に涙のすじが伝わった。検察の事務のために精も根も使いはたし、まるで骸骨のように痩せ細ってしまったこの恐ろしげな初老の探偵は、いま一体何を考えているのだろう。
真名古は写真を鄭重に内懐におさめる。服の上からそれを胸におしつけて、夢見るような眼つきをする。このしなびた頬が涙のあとをつけたまま、純真な少年のそれのように生々と輝き出すのだった。そういう表情を泛べたまま静かに立上って、毛束を手にぶらさげたまま以前格闘のあった場所へ引返して行く。
乏しい草と切石の荒地の上に一人の人物が横たわっている。その人物は一種異国風な雰囲気を身につけてこの小説中へ登場して来た、「ホヴァス」通信員、日仏混血児のジョン・ハッチソンだった。
傷口から息が洩れるかして、呻くたびにヒイヒイと篠笛のような音をたてる。カッと見ひらいた左の眼玉の上に、深沈たる夜気を映して、儚ないようすで倒れている。
シャツは血でずぶ濡れになり、服は荒布のようになって、その端がヒラヒラと風に戦いている。