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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
なんともいえない切迫した空気がこの空地を占領する。
この時、空地の入口の方から、寛々たる足どりで廃屋の玄関の方に近づいて行く一つの黒影があった。玄関から二十歩ほどのところに突っ立って廃屋の二階の窓を見上げていたが、その窓に向って沈着極まる声で、
「おい、安亀。面を出せ、俺だ」
と叫んだ。
暫くすると、正面の二階の窓が押開けられ、四角な黒い闇の中にほんのりと白い顔が浮かび上った。
「大親分でございますか、お変りもございませんで」
「安亀、暫くだったな。お前も丈夫で何よりだ。すこしお前に話したいことがあるから内部へ入れろ」
「どうぞお通りなすって。……只今ご案内いたします」
窓の顔が引込むと、ほどなく玄関の戸が内側から細目に引開けられ、寅造はその内部へ入る。
どこから集めて来たのか、窓という窓には古畳や土嚢で厳重な防塞が施され、玄関を挾んだ左右の窓の窓枠の上に据えつけた二台のホッチキッス機関銃が、蒼黝い銃身を物凄く光らせている。
もとは広間ででもあったのだろう、七十畳ほどの広い部屋の床の上に三つばかりカンテラを置き、それを囲んで九人の人間がしゃがんだり、胡坐をかいたりしている。