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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

そうかと思うと部屋の一所で、三十がらみの元気のよい男が、笑い上戸の練習をしていた。

「アッハッハッ、こりゃおかしい。執権高時ともあろうお方が、田楽が好きで田楽を舞い、アッハッハッ、ヘッヘッヘッ、それを天狗にからかわれ、天狗などとは夢にも知らず、新座本座の田楽法師が、伺候したものと思い込み、舞って舞い仆れたそうな。エッヘッヘッ、イッヒッヒッ、クッ、クックッ、こりゃたまらぬ」

この広大な部屋のかなた、三間ほど距てた奥の部屋に、燐火を想わせる蒼い燈火が、細々と一筋ともっていたが、それの周囲を廻りながら、胸へ血のように赤い色をつけ、髪を解いて肩へ振りかけ、白衣の裾を床の上に敷いた、幽霊姿の痩せた女が、

「怨めしや判官殿、わらわに恋のわずらいさせ、想いをつのらせ死なせしを、そなたには何んの苦にもせで、ほかに増す花の女をつくり、わらわの供養も仏事も空に、日夜にお通い遊ばすとは。怨みあるものかないものか、思い知らせでおくべきや、祟るぞえ祟るぞえ! 怨めしや判官殿!」

と、幽霊の稽古をやっていた。

広大なこの部屋のずっと外れは、縁越しの広庭となっていたが、そこには二人の壮漢がいて、二頭の猛犬の手綱を握り、向かい合って意気込んでいた。