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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

怪火点々

声に応じて大蔵ヶ谷右衛門は、大鉞を抛り出し、傍らの陣鉦をムズと掴み、突っ立ち上がると見る間もなく、兵法に叶った桴さばき、哈々と鉦を打ち鳴らした。

一里のあなたへも届くであろうか、そういう鉦の音に調子を合わせて、四方八方から鬨の声が起こり、すぐに続々と百人二百人、桂子配下の兵や、この森を職場として住居してい、この日の闘いに桂子の方へ、味方したところの野武士や非人、盗賊の群れまで、木の間をくぐり、藪をひらいて引き上げて来た。

と、桂子はまた叫んだ。

「檻を開いて猿や狐、熊でも狼でも放しておやり! あの子たちには用がなくなった。この大藪地大密林をあの子たちの住居にしてやろう」

声に応じて幾人かが、檻へ走り寄って戸をひらいた。

獣たちは走り出た。

が、逃げようとはしなかった。

永年飼われていたからである。

猿は近くの木へ登り、狐は近くの藪へ駈け込み、山猫は腐木の周囲を巡り、熊はいかにも審かしそうに、少し離れた小丘の上から、主人たちの方を見詰めてい、五尺以上もある白猩々は、人間と変らぬ老獪さで、桂子や浮藻に可愛がられていたが、栗の木の叉に駈け上がり、人間さながらに腕を組み、(俺どうやら見すてられたらしいぞ。