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わかむらさき

わか紫

泉 鏡花

「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页

青空文庫

みつぎもの

一

みつぎもの  裏関所  丁か半か  室咲  日金颪  神妙候

御曹子  黒影白気  梅柳

みつぎもの

一

伊豆のヒガネ山は日金と書いて、三島峠、弦巻山、十国峠と峰を重ね、翠の雲は深からねど、冬は満山の枯尾花、虚空に立ったる猪見るよう、蓑毛を乱して聳えたり。

読本ならば氷鉄といおう、その頂から伊豆の海へ、小砂利交りに牙を飛ばして、肌を裂く北風を、日金颪と恐をなして、熱海の名物に数えらるる。

冬季にはこの名物、三日措き五日措きに、殺然として襲い来るが、二日続くことはほとんどない。翌日は例のごとく、嘘のように暖く、公園の梅はほんのりと薫って、魚見岬には麗かな人集合。熱海の土地は気候が長閑で、寒の中も、水がぬるみ、池には金魚がひらひらと、弥生の吉野、小春日の初瀬を写す俤がある。

さてこの物語の起った年は、師走から春の七草かけて、一たびも日金が颪さず、十四五年にも覚えぬという温暖さ、年の内に七分咲で、名所の梅は花盛り、紅梅もちらほら交って、何屋、何楼、娘ある温泉宿の蔵には、雛が吉野紙の被を透かして、あの、ぱっちりした目で、密と覗いても見そうな陽気。

時ならぬ温気のためか、それか、あらぬか、その頃熱海一町、三人寄れば、風説をする、不思議な出来事というのがあった。