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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页
二十
ただ、万綱はじめ、手下の誰彼幾十人、一人として影を見せず、あとは通魔の鳴を鎮めて、日金颪の凪ぎたるよう。
さればこそ土地のものは、総六に魔が魅したといった。正直の通った親仁は、やがて、ただ通りがかりの旅の客に、船を一艘頼まれたとばかり、情を解せざる故をもて、程なく囚を免された。
と前後して、崖の小屋に一個の人物。
二十
年紀の頃三十四五の客が出来た。その人、眉秀で、鼻隆く、白皙俊秀にして盲いたり。長唄を歌って美音、尺八を吹き、琴を弾じ、古今の物語をよくして、弁舌爽かに、世話講談の座敷が勤まる。就中琵琶に堪能で、娘に手をひかれながら、宿屋々々に請ぜられて、安かに、親娘を過ごすようになった。
ここで諸人横手を拍って、曰く、はるばる小田原の鎮守に貢した、神妙候奇特につき、総六の産神が下したもうた婿であると。この何者かは誰にも分らぬ。
単これを知るものは、秋山警部長の夫人蔦子であった。
番頭が辷り出て、廊下に跫音の消えたあと、夫人はかねて、しかなさんと期したるごとく、すらりと立った衣の音、障子に手をかけ、まず、紙を隔てて、桟にたけた眉を載せた。
やがて、細目に密とあけると、左は喜兵衛の伝った方、右は空室で燈影もない。