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わかむらさき

わか紫

泉 鏡花

「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页

青空文庫

十三

何しろ、大地震でござりますから、いや、はや。」

十三

「ほんとうに、騒ぎだったのね。」

夫人は落着いたもののいいよう。

喜兵衛番頭、せき心で口早に、

「だッたの、なんのとおっしゃって、熱海中引くりかえるような大事、今にも十国峠が、崩れて来るか、湯の海になるかという、豪い事でござりました。貴女様、夫人は。」

「私はどうもしやしなかったよ。」

「何か早や夢のよう、この世のことか、前世のことか、それとも小児の時のことでござりましょうか。先刻の今が、まるで五十年昔あった、火事か大洪水、それとも乱国、戦国時分かと思われますような、厭な、変な、凄いような、そうかと申すと、おかしいような、不思議なような、さればといって、また現在目の前にちらついておりますような、妙な心持でござりまして、いや、もう、この大地震は忘れましても、道具の、出たり引込んだり一件は、向後いくつになりましても、決して忘れますことではござりません、と申しあげます内も、ぞッといたしまして、どうもこの、」

床の間のあたりが陰気に暗い。

喜番、据腰に手を突き出し、真顔に天井を仰ぎながら、

「魔のせいでござりましょう、とな、皆が、内々申合っております次第で、へい。