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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页
九
わざとたしなめる口ぶりで、
「当前だな、途方もない。」
「でも、そうしないと、無理に、あの、その苞を。」
その苞は、ここにこの娘の胸に、天女が掛けた羯鼓に似ていた。
「捕られて、中を見られるんですもの、あんな奴に見せるのは厭。」
「だから、だから今そういって聞かしたではないか。
どんな大事のものだって、身体と取っかえこにしてなるものかな。
このさきもある事だよ。」
九
「はい。」
とばかり不承不承、返事も恩人なればこそ、承けひく気色はちっともない。
旅客は再び、差寄って、
「よ、ほんとうに気を着けなよ。
今の車夫もそういったが、お前何か、それを持って小田原まで行くんだというではないか。
気にかけないものだというと、瞽女が背負った三味線箱、たといお前が藁づつみの短刀を、引抱えて歩行いた処で、誰も目をつけはしないもんだが。
そうやって、人に見せまい、必ず手をつけさすまい、と秘しているだけ、途中何となく気が寄って、まあ、魔がさすとでもいうものか、思いがけない邪魔が入る。
またこの前、どんな事で、誰が見ようとしないとも限らない、――その時だ。
今のように、身体で庇って、とんだ怪我でもしちゃ不可ん、気をつけるんだよ、きつと、可か、分ったかね。