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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页
二十一
「よく、お前、呼吸を殺していられてね、苦しいだろう、湯か、お水でも上げようかい。」
膝さし寄せてひそめきいう。
「いいえ、私、沢山、水を飲みました。」
振仰向いて手をついたり。
「お水を?」
「あの、お床の中で、」
「床の中で?」
「はい、私、海の中で、水潜りをしますように、一生懸命に、呼吸をしないでいたんです。
でもしばらくですもの。
もう堪え切れなくッて、沢山水を飲みました。私、泳げますようになってから、潜っていて、水を飲みましたのは、これでたった二度なんです。ですから、あの、水を飲みましたからこんなですよ。」
とわなわなふるえが留まらず、髪も揺いであはれであった。
「可哀相ねえ、よく辛抱をおしだった。
でもね、そうしないと、今時分、思いがけない処にお前が居るんだもの、直に気がつかれて、怪まれないじゃ済みません。
それにね、何、お鶴さん。」
夫人は一際声を密め、
「ここの内の番頭がね、ああ見えて、内証で警察の御用なんか聞くんだから。」
二十一
「それが談話に来たんだもの、私はもうてっきり。お前さんたちのした事が分って、この宿でも紛失ものが知れたから、旦那に相談にでも来た事と思って、何か聞いている内も、はらはらして気が気じゃなかったの。