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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页
十四
これは帰ってから手前どもへ参った時、ききましたのでござりますが。ええ、首尾よくお宮へ献納いたして、一、この度、何々して奇特の段神妙候、藤原の何某、びたりと判の据わった大奉書を戴いて、崖へ戻りますと、それから、皆様へお目にかけますというので、娘がいつも世話になります、湯宿々々の主人の許へ、一ツずつ九軒ばかり、ずらりと配りましたのでござります。」
ここで番頭苦笑一番。
「どこの主人も慾張っておりますから、大層縁起がって、つるりと鵜呑。地震の卵と知れてからは、何とも申されぬ心持。」
十四
「中には諺にも申します、一口茄子に食てやるは可惜もの、勿体ないと、神棚へ上げて燈明の燈心を殖しまして、ほほう、茄子ほどな丁子が立った、と大層縁起がっていたのもありまするそうでござりますが、さあ、それが大地震の前兆だとなると、不気味千万。
取棄てようにも、下そうにも、揺れ出しそうで手がつけられませず。そうかといって、そのままにしておけば、それなりに転げ落ちて、そこから大地が破れるだろうと、愚にもつきませんが気が寄って取越苦労、昇天する蛇玉でも祭籠めたように、寝る間も気扱いをしましたそうで。