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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页
」
伝九郎は揉手でびたびたお辞儀する。
二人の車夫を屹と見ながら、お鶴を庇うて立ったのは、洋装した一個中脊の旅客であった。
濃い藍の鳥打帽、厚い毛皮の外套を、襟を立てて、顔の半ばから膝の下。鼠のずぼんの裾が見え、樺色の靴を穿き、同一色の皮手袋、洋杖を軽くつき、両個の狼を前にしつつ、自若たるその風采、あたかも曲馬師の猛獣に対するごとく綽々として余裕あり。
時に真鶴の山中は、当世風の扮装した一のこの旅客を得て、はじめて湯治場へ行く道の、熱海街道となったのである。はじめ、その山、その岩、その霜、蜜柑畑も枯薄も、娘の姿も車夫の状も、浮世に遠き趣ならずや。
「洒落にしろ宜くないな、黙っちゃ通られん洒落じゃないか、乱暴な事をする、可哀相に。」
といいかけて、半ば隠れて顔は見えぬが、在原業平の目かずらかた俤で、あとなる娘を顧みた。
薄日は射したがまだ融けぬ、道芝に腰を落して、お鶴はくの字形に手を小石。親まさりの爪尖尋常に白脛を搦んだまま衝と横に投出した、肩肱の処々、黒土に汚れたるに、車夫等が乱暴のあとが見えて、鈴かと見える目は清しく、胸のあたりに張はあるが、落胆り疲れた様子である。