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わかむらさき

わか紫

泉 鏡花

「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页

青空文庫

娘はそれを見送るように、真うしろに旧来た方、男に背を向けてぞ立ちたる。

さて旅客は、手ずから包を旧のようにして、静に提げてお鶴の傍へ。

黙って背後から、密とその頸にはめてやると、苞は揺れつつ、旧の通りにかかったが、娘は身動きもしなかった。四辺には誰も居ない。

と視むれば、その浅葱の紐が、丈なる髪を、肩のあたりで仕切ったので、乱れた手絡とは風情異り、何となく里の女が手拭を掛けたよう、品を損ねて見えたので、男は可惜しく思ったろう。

手袋の一ツをはずして、手を、娘の、鬢の下に差入れた。おのずから得ならぬ薫、襟脚の玉暖かく、衝と血の湧いた二の腕に、はらはらと冷くかかった、黒髪の末艶やかに飜り、遮るものはなくなった。これにも娘は熟として、柔順に身をまかせていたのである。

「じゃあ、気をつけて行くんだよ。」

「貴下は熱海へいらっしゃるの。」

「ああ、そうさ。」

「今の人車だと訳はありはしませんのねえ。歩行いて行っては大変ですわ。」

「お前こそ、女の足で随分じゃないか。」

「いいえ、車なんか危なっかしくッて不可ません。ずんずん駈け出して行って来るの、何とも思いはしませんよ。