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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页
」
「私も実は人車はあやまる。屋根は低いのに揺れると来て、この前頭痛で懲々したから、今度は歩行くつもりで、今朝小田原からたって来たが、陽気は暖かだし、海端の景色は可し、結句暢気で可い心持だ。しかし私は片道だが、お前は向うで泊るのかい。」
「あの、おつかいをして、直ぐに今日帰るんです。」
「ざっと行きかえり十四五里、しかもこの山路を、何だか私は、自分の使いにでも遣るようで、気の毒でならんのだ。」
娘は嬉しそうに……何にもいわず。
「しかし、神ごとだというんだから、今の雲助とは訳が違って、金銭ずくでは仕方がない、じゃ、これで別れるよ。」
「…………」
男は再び、深く外套の襟を立てた。
「御苦労だな。」
と支いたる洋杖、踵を返した霜路の素足、静に入れ交って、北と南へ。
「おお。」
心着いて旅客はまた、うなだれて行く娘を呼んだ。
「ちょいとお待ち、大切なことを忘れた。折角、その珍らしい、めで度いものを見せてくれたに、途中だ、礼の仕ようがない。心ゆかしにこれを上げよう、これでもここらに散ばった落葉朽葉よりいくらか増、志は松の葉だ。
さあ、手帳がある、それから鉛筆、これはね、お前の胸にかけたものと、同一紫の色なんだから。