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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页
ちょうどこの上のお座敷でござります、そこへ機嫌ききに参りますると、六十五になる御法体の隠居様。番頭どのや、厭な風説があるの、今湯殿で聞いて来ました。三人が五人、皆大地震があるといっておられたが、とこうでござりましょう。
へい、いいえ、一向に存じません、さようなことが、と申したものの、ちと変な気になって、下へ下りますと、暖簾から、内のおかみさんが半分からだを出していなすって、喜兵衛や、湯の熱さにかわりはないかい、大地震があるというから、と屈託そう、ちと血の道気な処、青ざめておいでなさる。
そこへ勝手口から、魚を仕入れて来た金公と申します板前が、大変な風説です、地震の前で海があおっと見えまして、この不漁なこと御覧じやし、蠣、鮑、鳥貝、栄螺、貝ばかりだ、と大呼吸をついております。
私は肥満っているから遁げられぬ、と鍋釜の前で貧乏ゆすり。
処へ、毎朝海岸まで、お太陽さまを拝みに行きます、旦那が、出入りの賀の市という按摩と、連立って帰りました。
門口で分れる時、お互だ、しかし、かえってお前のような不具が無事に助かるもんだ、とこういって台所へ。
喜兵衛出て見ろ、何と妙な日の色だぜ。