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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页
また同一時刻に、降って来る荷物の中、落ちて来る衣類の中を、掻い潜り掻い潜り、溜った上を飛び越え飛び越え、浪に乗って行くように、ずッと山の手から、海ッぷちまでを、みだれ髪で、丈の小造な、十五六とも見える、女が一人、蝶鳥なんどのように、路を千鳥がけに、しばらく刎ね廻っておりましたが、ただもう四辺は陰に籠って、烈い物音がきこえますほど、かえって寂として、駈出したものも軒下に突伏したり、往来に転んだきりだったり。
通ったはその小娘ばかりで、やがて床屋から小火が出て、わッという紛れにそれなりけり。
どこへ消えましたやら、見えなくなったと申しますが、いずれな……魔がな。
何でも熱海を掻攪して、一時お遊びになりましたものと見えます。
とその茄子でござりますで。」
「ああ、それが、」
番頭は一呼吸つき、
「それが、根元と申しますのは、地体この地震の風説は、師走以来の陽気から起ったのでござりましょう。それとても年内に梅が咲きますくらいは何とも気にはなりませんが、ただ、茄子が生ったのは、前代未聞じゃ、と申して、それからの事で。
特に、小田原へ使いに参った娘から聞きますと、それをまた、宮で受け取った神官と申すのが、容易なりません風体。