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わかむらさき

わか紫

泉 鏡花

「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页

青空文庫

黒影、白気

二十二

」

「…………あの、あの方がいったんですから。家来は大勢居ましたけれど、誰も手出しが出来ないんですって。」

「そうねえ。」

あの方だから、というものを、夫人は諭すべき言もなく、

「大勢居て?」

「はい、十四五人。」

「何、そうして魚見岬の下だって。」

「あの、大な巌だの、小な巌だの、すくすくして、浪の打ちます処に、黒くなって、皆、あの、目を光らかして、五百羅漢みたように、腰かけているんです。」

黒影、白気

二十二

「じゃ、お前が、あの方という人はえ?」

「あの方は、一番高い尖がった巌の上に、真暗な中に、黒い外套にくるまって、足を投げ出して、皆の取って来たものを指環だの、黄金時計だの、お金子だの、一人々々、数をいいますのを、黙って聞いておりました。」

かえって夫人がさしうつむいた、顔を見るだに哀さに、傍へそらす目の遣場、件の手帳を読むともなく、はらはらと四五枚かえして、

「星があっても暗かったろう。」

「遠くの沖で時々浪が光ります、あのこの鉛筆のような紫色に。

その他は、闇だったんです。」

「でも、よく手帳へ書けたのね。」

「蒼い色に燃えますマッチを摺るんです。そうすると、明くなって、巌に附着いた、皆の形が、顔も衣服も蒼黒くなって、あの、大な鮪が、巌に附着いておりますようで、打着ります浪の※が白くかかって見えました。