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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页
前刻、奥様がお座敷にいらっしゃらない処へ入って、私、よっぽど盗ったんです。そうして洋燈を吹消して出ようとして見ますと、あの向うの蒸風呂の壇を上っておいでなすって、どこへも遁げられませんから、洋燈を消して、壁に附着いて屈んだんです。
でも、ずんずんいらっしゃって、座敷へ入りそうになりましたから、私、蒼い灯をつけて威したでしょう。
え、え。
でも、恐がらないで、おや、お前かいッておっしゃいました。
あの時摺ったマッチですわ。
私、ここに持っております。」
と、帯の間に手を入れる。
「可いよ。可いよ、見なくっても大事ないよ。」
余りの事に、さるにても、なお瞻らるるお鶴の顔。
「でも何、先刻私を威したのは、あれはお前が考えたの。」
「いいえ、ここへ来ましょうと、巌を下ります時に、暗がりから、誰だか教えてくれたんです。」
「何といって、さあ。」
夫人は忍び音を震わした。
「対手は婦人だ、それに、お百度を踏もうという信心者だから、遣損なったら、威すと可い。遁げるだけは仔細はないッて、」
「あれ、そんなことまで知っているのかねえ。」
「はい、そしてあの、十二時を過ぎてから、お百度をなさいますから、その隙にッて、いいましたんです。