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わかむらさき

わか紫

泉 鏡花

「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页

青空文庫

でも、来て、あの姿見の向うの流しの硝子戸から覗きますと、映りましたのは私ばッかりで、奥様はお座敷にも廊下にも見えなさいませんから、この間と思って、飛込んだんでございますわ。」

「であの、そこへ集っただけで皆?」

「いいえ、仕事をするとすぐに。」

ちりちりばらばら。

「三島へ遁げるのもありますし、峠を越して函嶺へ行ったのもございますし、湯河原を出て吉浜、もうその時分は、お関所辺で、ゆっくり紙幣を勘定しているものもあろうし、峠の棄石へ腰をかけて、盗んだ時計で、時間を見ているのもあるだろうッて、浪の音の合間々々に、皆が話していたんです。」

「大概どのくらいな仕事だとか、その人はいっちゃいなかったの。」

「内端に積りまして一万円ばかりですって。」

「大変なこッたねえ、それから、何、お鶴さん、その人の名は何というの。いいえ、大丈夫、私の命がなくなっても、とお百度を拝んでいる、観音様の御名にかけて、きっと人にはいわないから。」

「万綱っていうんです。」

「ああ、そうでしょう。それからその手下の衆の名は知らないかい。」

「はい、地震が済むと、私と二人で、そこら歩行きながら、巌の上へ参りました、しばらく経ちますと、一人来たり、三人来たり、ぴちゃぴちゃ、潮のふるえる音がしました。